オピニオン

メイドインジャパンの悲しき現実とは

こんにちは!ファッションデザイナーの江森です。

あなたは「メイドインジャパン」という言葉を聞いたことがありますか?

来年の東京でのオリンピックを迎えるにあたり、政府も「日本を見直そう!」というムードをあおり、また私のいるファッション業界でも百貨店などは「メイドインジャパンプロジェクト」とさまざまなイベントを仕掛けています。

わたしは今までたくさんの工場とお付き合いをしてきました。現在も国内、海外にかかわらず工場の現場で物づくりを行っています。

そんな日常の中で最近のメイドインジャパンをあおるムードについて違和感を感じた私の思うことを書いていきたいと思います。

なぜ今、メイドインジャパンなのか?

現在日本のアパレル製品における数量ベースの国内生産比率は2%台になったといわれています。

そんな現状の中でなぜ今、メイドインジャパンなのか私なりに考えてみると・・・

1-1.百貨店のメイドインジャパンプロジェクト

10年以上前までは高い服を買う場所として認知されていた百貨店は縮小の一途をたどっています。

ユーザーの服の買い方が多様化していき、売り場としての存在意義を無くしかけている現状の中での仕掛けの一つが「メイドインジャパンプロジェクト」なのです。

大手アパレルと百貨店がタッグを組み自分たちの商品を買ってもらう理由付けとしてのメイドインジャパンは、あまりにも自分たちのご都合主義で、そこには「日本の産業を守る」などの本当の理念や哲学は存在していないと感じています。

1-2.メイドインジャパンをコンセプトにする新興アパレルの出現

ユニクロを始めとするファストファッションが主流になり、若い人達の間で服にお金をかけるのがダサいというムードが蔓延している中、アパレル業界において新興勢力が登場しにくくなっている現状があります。

そんな中で「ファクトリエ」や「トウキョウベース」など国内縫製を売りにする新興アパレルが台頭してきています。

大手アパレルのほとんどが中国や東南アジアなどの海外縫製にシフトする中で、差別化する戦略の一つがメイドインジャパンなのです。

消えゆく国内縫製工場

仕掛けの一つのメイドインジャパンはとにかく、実際の国内工場の現場がどうなっているのか?これについて触れたいと思います。

2-1.国内のカジュアル工場は既に壊滅状態

ユニクロやGU、無印を始めとして最近ではセレクトショップもファミリーターゲットとしてイオンモールなどにリーズナブルなカジュアルブランドを展開しています。

カジュアルに関しては価格が安く、品質も良いことが当たり前になってきており、これらのほぼ100%が海外縫製になっています。

カジュアル国内工場の分野では一般的な工場は壊滅して、スポーツブランドなどの特殊な縫製に対応できるテクニックを持つ工場がごく一部残っている状態になっています。

2-2.生き残りをかけて業態転換するスーツ工場

青山やAOKIなどスーツ郊外店が海外縫製で生産する中、百貨店ブランドやセレクトショップの高価格帯が国内工場で生産を行っていました。

しかし、近年では既製スーツの高価格帯は売れなくなってきており、今までのように安定した数量を工場に依頼できなくなっています。

生き残った国内のスーツ工場は既製に変わって好調のオーダースーツの仕事を取るために工場内部の設備などの転換をしていっています。私も生き残りのために変わっていく工場をいくつも見てきましたし、今後もその流れは続くと思っています。

2-3.仕事の有無にかかわらず減る一方の労働力

例えばオーダースーツ工場などは、業態自体が今人気があり販売も好調なので工場自体にも仕事が入るのですが、それでも経営状態が上向くことはありません。

どんなに仕事が増えても人の確保に苦労しており、高齢化でやめる人はいても新しい人が入ってこない状態が続いています。

国内工場全体の問題として賃金の安さや忙しければ土日も出勤しなければならないというネガティブなイメージが人を集まりしにくくしているのです。

日本製が良いというのは今や幻想

日本製の品質が良いという打ち出しの中、本当にそうなのでしょうか?

私自身、国内だけでなく実際に海外の工場にも触れていることから品質も含めて少し客観的な目線で触れてみたいと思います。

3-1.中途半端な日本製より中国製の品質のほうが良い現実

正直に言って日本の工場というだけで品質が良いとは断言できません。

こだわりを持ち手間ひまをかけて縫製を行っている一部の工場は別ですが、スーツに関しては一般的な工場であれば、確実に中国工場の品質の方が良いと感じています。

その理由はについては、人だけでなく設備の問題も大きく関係しています。

3-2.設備投資できない国内工場と積極投資をする中国工場

今残っている国内の工場でも一つのスーツをつくる工程の全部を完結させているわけではありません。

例えばジャケットは自社で縫うがパンツとベストは協力工場に依頼し、またプレスを別の工場で行っている場合もあります。

現在の国内工場はスペースや人員の問題もあり、分業体制で一着を縫い上げる形になっており、問題が起こった時に共有しにくい面があります。全てではありませんがこのことが品質が落ちる理由の一つにもなっています。

また、ミシンやプレス機など設備の面でも経営者の立場からすると後継者もなく将来的な不安のために積極的な投資をしにくくかなり古いものを修理しながら使っているのが現状です。

分業制の国内工場に対して、中国は完全な一貫縫製体制です。

広大なスペースと豊富な労働力もあり、全ての工程を自社工場内で行っています。

仮に問題があっても改善も早く、工員同士が密に連携をとることにより品質がアップしていきます。

設備の面でも将来を見越した積極的な設備投資を行っている工場もあり、現状では日本の工場との差は開く一方になってきています。

3-3.年々、急速にレベルを上げる東南アジアの工場

そんな中国工場でも今は、ベトナム、インドネシア、フィリピンなどの東南アジアの工場に仕事が奪われています。

上海や北京、大連など都市部近郊の工場は既に人件費の高騰などで、安い工場ではなくなっており青山やAOKIなどのスーツ郊外店は現在ほとんどが東南アジア縫製にシフトしています。

都市部の工場も仕事を奪われる現状をただ見過ごすのではなく、日本で人気のあるオーダースーツ工場の仕事を取るために積極的な営業活動で生き残りを図っているのです。

私が10年携わっていたイタリアはどうなのでしょうか?

国の産業として認知されるイタリアの縫製工場

イタリアのファッション産業について触れてみたいと思います。

4-1.経済の中核を担うイタリアファッション産業

イタリアのファッション業界は車と並んでイタリアの重要な産業として位置づけられています。

なによりイタリアでは国が人材を育て、ファッション産業に従事する人を送り込んでいます。

大企業よりもたくさんの中小企業が存在し、それぞれ切磋琢磨してイタリアファッション業界を盛り上げているのです。

4-2.国内市場の縮小とともに衰退する日本と世界を相手にするイタリア

日本国内でのファッション消費金額が少なくなり市場が少なくなっている日本と比べてイタリアは、早くから世界のマーケットを相手にしています。

EU圏内にとどまらず、アメリカ、中東、アジアなど幅広く商圏を広げることで一時的な落ち込みをリカバリー出来る仕組みをつくっているのです。

4-3.下請の国内工場とデザイナーもコントロールするイタリアの工場

イタリアと日本との決定的な違いは、縫製工場の位置づけにあります。

下請けという認識が強く、アパレルや小売の業績の変化によってもろに影響を受けてしまう弱い立場ではなく、イタリアでは縫製工場が非常に力を持っています。

企画生産小売までを行う日本のアパレルと違いイタリアではデザインする機能と生産する機能が完全に分離されていることがその理由です。

イタリアという国全体が職人や技術という物づくりに対するリスペクトが高く、若い人材があこがれる職種として認識されていているのも工場が活性化する要因にもなっています。

工場自体が物をつくるだけでなく、マーケティングも行い世界的な販売戦略を組み立てる機能があることによりデザイナーまでもコントロールしているのがイタリアの工場の強みなのです。

メイドインジャパンに未来はあるか?

いろいろ悲観的な部分をあげてきましたが、日本の工場に未来はあるのでしょうか?

それについて個人的な見解を述べてみたいと思います。

5-1.高くても売れる価値のあるストーリーづくり

現実的には、日本の工場で安いものをつくることは出来ません。

国内生産量は2%台にはなっていますが、売り上げ金額では20%強ぐらいのシェアがまだ残っているのです。

逆説的に言えば高くても売れるもの、モノではなくストーリがあって作り手の背景が見えるような商品をユーザーに提供出来るようにすることが大事だと感じています。

見せかけでなく、人の心を動かす本当に届けたいストーリ作りが大切なのだと思います。

5-2.一緒に夢を見れるパートナーとのジョイント

現在、日本の工場の中でも下請けに甘んじるのではなく、自分たちで直接ユーザーに販売をしていこうというムードもまだわずかですが、おきつつあります。

しかし、工場はつくりのプロではありますが、売るプロではありません。

個人的に思うのは、今の日本の工場に必要なのは高い工賃の仕事ではなく、一緒に将来の夢を見れるパートナーではないかと感じています。

5-3.価値を認めてくれる海外への進出

10年ぐらい前から日本の生地工場は、海外への販売を積極的に行っていました。

私の知っている生地屋さんもヨーロッパの展示会に出展して継続的な営業活動をしています。

日本の生地はヨーロッパのラグジュアリーブランドにも評価が高く、既に輸出金額ではイギリスやフランスを上回っているのです。

価値の認めてくれない相手ではなく、認めてくれる人を相手にする。

縫製面においても日本製の品質は中国や韓国などアジア諸国でも非常に評価が高い部分もあるので簡単ではありませんが良いパートナーとジョイントして積極的に売り込んでいくのも戦略の一つではないかと考えています。

まとめ

私の知る限り、工場の現場行って思うことは、そこで働く人達は物づくりに真摯で純粋な人達が多いと思います。

モノの売り方が劇的に変わっていく中で、服に関してはシステムの便利さばかりがクローズアップされていることに違和感を感じています。

ユニクロの100万枚も小さいブランドの100枚も人が縫っているのは事実であり、それはまだまだアナログなのが現実なのです。

私は微力ではありますが、メイドインジャパンの可能性があるかぎりそのことをたくさんの人に伝え関わっていきたいと思っています。